徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

about Change of season.

A night... that after hard rain for the next season.

There is no buzz of cicadas in this night.

Just only crickets.

It's beautiful but sadly.

So I don't like end of summer.

I love summer and also love autumn.

But I hate end of summer from childhood.

 

A raccoon dog's diary

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Windowsフォトビュワーについて

Windows7までお世話になっていた「Windowsフォトビュワー」が10では消えてしまい、不便な思いをしていたのですが。

実は簡単に復活できることが判明。

こちらを参考に無事復活できました。

dekiru.net

感謝。

 

徒然狸 ―タヌキの日記―

 

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寿命について

8年半前に買った液晶ディスプレイが異常をきたす。

日中、なんとなく画像表示に異常がある気がする。

フォルダを開こうとすると一瞬固まってるような・・・。

深夜、全体的に表示がおかしいことに気づく。

動画を見ていると気づかなかったのですが、ウィンドウを閉じてデスクトップを表示すると、壁紙に設定しているCGにざらつきが見られました。

ぱっと見は分からないのですが、例えばハイカラーのCGを256色表示したような、色解像度が不足しているような感じです。

よくわからんのでPCを再起動してみることに。

・・・普段PCはスリープにしているので、再起動は月に数回するかどうか。

まあこれで治るだろうと思っていたが、甘かった。

起動中、ロゴにノイズが入っている。

そしてデスクトップが表示されると、明らかに色がおかしい。

全体的にノイズ交じりでセピア色。

そして次の瞬間、暗転。

ただディスプレイ自体はスリープしていないから、PCからの信号が途絶えたわけではないことがわかる。

・・・・・・。

まーじか。

そういえば以前使っていたPCは今のと同じメーカー、同じシリーズのものだったが、グラッフィックス系に異常をきたして昇天したのだった。

まさか、またか。

でもまだ新品だぞこれ。

1年たってない。

マジかよ。

とか数分悩んでいたら、ディスプレイになにかが表示された。

一瞬、デスクトップが表示され。

一気に緑ににじむ。

さらにそれが暗く彩度の低い紫色に、じわーーーっとにじんでいく。

地獄のオーロラのような模様は画面全体を覆いつくし、そこで停止。

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・・・。

なにこれ怖い。

まさか本当にPCのグラフィックス系がいかれたのかと思ったのですが、ふと気づく。

右上に表示されている四角い「デジタル」の表示。

これはPCのシステムが描画しているのではなく、ディスプレイに内蔵されたソフトウエアが表示しているはずです。

この表示までおかしいということは、原因はPC~ケーブルではなく、ディスプレイそのものにあるのでは・・・。

また画面が動かないのでマウスやキーボードでのPC操作はできないが、PCの電源ボタンを押してやるとシャットダウンシーケンスが正常に作動しているのがわかった。

やはり、ディスプレイが怪しい。

 

仕方ないので切り分け作業開始。

余計なPCとディスプレイはないので、テレビとPS3を使用。

まずPCとディスプレイを接続しているDVIケーブルを脱着。

そしてPCとテレビをHDMIで接続し、起動。

普通に起動した。

Win9X時代からPCで遊んでいた感覚からすると、テレビ画面にPCの表示がきれいに表示できているのはなんだか不思議な感じがします。

テレビがデジタル化・フルHD化するまでは、テレビ画面の解像度はPCのディスプレイよりずっと低かったため、PCをテレビにつなぐとにじんだような画質になるのが当たり前だったのでした。

 

次に、PCとディスプレイをHDMIで接続。

ディスプレイのスリープが解除されるから信号は行っているし、液晶の光源も点灯しているが、何も表示されない。

 

さらに、PS3をPCディスプレイに、HDMIで接続。

起動するとディスプレイのスリープが解除され、信号が送られていることは分かるが、何も表示されない。

ディスプレイについている操作スイッチをいじってもメニューすら表示されない。

やはりおかしい。

 

最後に接続を元通りにし、PCを再び起動。

・・・今度は地獄のオーロラすら表示されない。

PCのブートシーケンスが完了したところを見計らって電源を押すと、やはりシャットダウンシーケンスは正常に動作している模様。

 

ちなみに、もちろんPCやディスプレイの電源外し~放電はしてみたが効果なし。

ほぼ間違いなくディスプレイの異常と判断。

仕方ないのでスマホで価格コムにアクセスし、新しいディスプレイをポチる。

今と同じIO DATA、同じサイズ、前回は間違ってグレア液晶を買ってしまったので、慎重にノングレアを選択。

注文情報入力、スペック確認のために行ったり来たり。

ああもうハイパーめんどくさい。

PCなし、スマホのみで生きている人間がいることが本当に信じられない・・・。

 

そして一連の作業が終わったのは午前三時半。

なんだか、夏の終わりにはろくなことがない気がする。

 

で、翌日。

試しにPCを起動してみると、ディスプレイが普通に動作。

いま、この記事を書いています。

PCあるあるですね。。。

よほどクリティカルな異常でない限り、一晩寝かせて冷ましたり、静電気が抜けたりするとケロッと治ったりする。

ただまあ、寿命が近いのははっきりしています。

また変なタイミングで壊れられても困るので、早いとこ新しいのに交換しなければ。。。

 

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ポンジュースおよびポン酢についてのホラ話

みなさまはポンジュースというのをご存じかと思います。

愛媛県産の柑橘類を使ったジュースですね。

でも、なぜ「ポンジュース」という名前なのかと聞かれると、答えあぐねるのではないかと存じます。

ここにわたくしが、その名前の由来について書き記しておきます。

 

関係ないようで関係のあるお話ですが――。

四国地方には昔から、名高いタヌキが多く存在しています。

阿波狸合戦金長狸合戦)に登場する金長などはその代表格といえます。

ジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」でも、多摩丘陵のタヌキたちが人間に戦いを仕掛けるため、四国の有力なタヌキに助力してもらうエピソードが描かれています。

 

さてポンジュース

いまでは「ニッポンが世界に誇るジュース」という語の略称であると人間界では信じられていますが、その実情は少々異なります。

ポンジュースとは本来、タヌキが開発したジュースであり、その証として「ポン」の名を冠したジュースとして名づけられたものでした。

 

現代社会においてタヌキたちが人間社会に溶け込み、ともに働き生活していることはみなさまご存じのことと思いますが。

その一端として愛媛県には、果樹園を経営するタヌキがおります。

もちろん、みかんなど柑橘系の果物が、その主たる生産品です。

そのタヌキは極めて研究熱心であり、よりおいしい実を成らせるため日夜努力を重ねておりました。

そしてある日、様々な品種交配を経て彼は、とても甘みの強い柑橘類の新種を樹立せしめました。

彼はタヌキですが、人間社会ではまさかそれを主張することはできません。

しかし常々、タヌキの名を人間界に轟かせたいと考えておりました。

そこで彼は一計を案じました。

その新しい品種の名称に、せめてタヌキが開発したのだという証拠を残そうとしたのです。

はじめのうちは、「たぬきみかん」など分かりやすい名称を付けようと考えましたがそれではあまりにも露骨すぎます。

或いはその真意に気づいた人間たちから危害を及ぼされないとも限りません。

そこで彼は「たぬき」ではなく、それを抽象化した「ぽん」という言葉を使うことを思いつきました。

タヌキといえば腹鼓、という根も葉もないイメージは完全に理由不明にせよ、いまや人間の認識に深く溶け込んでおります。

そしてその音のイメージを擬音とすれば間違いなく「ぽんぽこぽん」となります。

その「ぽん」の音をタヌキの象徴として拝借しようと考えたわけです。

そして彼はそのおいしい果実に、「ポンポコミカン」、略して「ポンカン」という名前を付けることにしました。

このポンカンはあっというまに人間界に広まり、愛されることになりました。

 

またその後、このタヌキはさらなる品種改良にも成功しています。

皆さんご存じの「デコポン」という果実です。

この果実はポンカンをもとにして生まれたものですが、大きな特徴として果実の頂点がぼこっと凸になっていました。

出っ張っているポンカン、デコポンというわけです。

 

さてずいぶんお話が長くなってしまいました。

ここからいよいよ、ポン酢の名前の由来が明かされます――が、もうみなさま、だいたいの予想はついているかと思います。

 

中部地方のある「酢」のメーカーがあるとき、柑橘類の風味を生かした酢を作れないかと考えました。

柑橘類と言えば、やはり愛媛県です。

メーカーは愛媛県でとれるさまざまな柑橘類を調査し、とくにポンカンやデコポンなど、「ポン」の名を冠す柑橘類が酢に対して非常に相性がいいことを見出しました。

そしてその生産者と話すうちに、メーカーは気づきました。

この生産者は自分と同じ、タヌキなのだと。

そこからはあっという間に話が進みました。

タヌキが作る酢に、タヌキが作る柑橘類を混ぜた、まったく革新的な調味料を世に送り出す。

そしてその名前には、タヌキの象徴である「ポン」をつけようと。

「ポン酢」誕生の瞬間でした。

 

そしてあとはみなさまご存じの通り。

ポン酢や、それに続く「味ぽん」はあっという間に日本中の家庭に受け入れられ、今では日本食の立役者としてなくてはならない存在です。

そしてどうか、忘れないでいただきたい。

この日本の食文化を支える一端には、タヌキたちの働きがあったことを。

 

徒然狸 ―タヌキの日記―

 

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散文詩のつもりで書き始めた短編SFについて

(いしずえ)

 

夢のように思っていた21世紀を迎え、それでももう20年ちかくが過ぎていた。

生まれたころから不景気、不景気というため息を聞きなれていたから、大人になるまでそれが当たり前だと思っていた。

ただ、その不景気の中にも上下の波があって、自分はまだマシな波の上にいたのだとおもう。

政府から化学修士の称号を戴き、就職した技術系会社は一流企業の端くれくらいではあった。

 

入社して1年間は設計技術の習得を義務付けられた。

その会社の技術を手っ取り早く、包括的に感じるためにはそれが一番だから、という理由だった。

化学者の仕事とは思えなかったけれど、仕事ってたぶんそういうものだし。

コンピュータを扱うことには慣れていたから、とくに不満はなかった。

 

入社2年目、材料開発の部署に配属が決まった。

化学者としての自分にはまずまず、適正な配属といってよかった。

もしかしたらこういう、小さめの会社だからこそ、人事も新入社員の適性に心を砕いてくれているのかもしれない。

 

配属初日、人事の人に案内されて部署のフロアに行く。

この人が指導係だ、と示された人は、ひと回りくらい年上の男だった。

ていうか、爆睡していた。

 

始業のチャイムが鳴ると男は、おはようございます、と間の抜けた挨拶をして椅子に座りなおした。

眼鏡をずり上げ、ノートPC端末を開いて電源ボタンを押すと、ついでのように私の名前を確認した。

 

 

初日は社内案内と安全教育の予定だ。

自分と同じく新人を受け持つ後輩社員に、何をどうすればいいかと相談を受けていたが。

「適当にやるわい」と息巻いてろくに準備もしていなかった。

とりあえず「カッターナイフの使い方」など謎の資料をカラー印刷して携行できるようにしておく。

そして初日の朝、始業前に新人がフロアに集まる。

ポリシーとして「1分もサボらない代わりに1分も時間外労働しない」を掲げているから、

チャイムが鳴る瞬間まで狸寝入りを決め込んだ。

 

自分が新人を担当することになり、その新人は女の子だと、あろうことか数日前に、あろうことか風のうわさで聞いた。

挙句、前日まで何の音沙汰もなかったので、自分から部長に確認をとった。

さすがに顔と名前を忘れられたのでは心細かろうから、新入社員データを見て名前を何度もつぶやき、どうにか記憶する。

画像データは1 bitでなんだかよくわからなかったが。

技術部署に配属されたのだから、ゴツめの子だろうと推定した。

 

隣席にきれいな女の子が案内されてきたとき、狸寝入り/新人対応の切り替えに失敗し一瞬気絶。

いまだに貴族であり、そのまま仙人と化そうとしている自分に対する部長の策謀だと悟った。

わけのわからぬまま相手の名前を確認し、戦のごとくてめえの名乗りを上げた。

配属後の1秒1秒、何をすればいいのか不安であろうことはわかっていたが、細切れな質問と対応を指示することくらいしかできなかった。

 

とにかく計3名の新人を集め、社内ルールや部署ルール、一般注意事項などを話して聞かせる。

そして社内案内。

工場併設の会社だから、歩き方ひとつ間違うと大事故の元になる。

工場では帽子は絶対にかぶれ、禿げたくなければな、などとしどろもどろのギャグをかましながら広大な敷地を練り歩く。

 

 

先輩社員というものはもう少ししっかりしている感じだと思っていたが、男の言動はその予想を裏切った。

社の広い敷地を歩きながら、たしかにまともな説明や注意事項を話してはいる。

だけど1説明につき1個以上飛び出すおやじギャグがそのすべての緊張感を破壊していた。

新人を和ませるためだろうかとはじめは思ったが、すぐに分かった。

これはこの男の地だ。

この男、めんどくさい。

 

――数週間の時間が過ぎた。

OJT期間だからか、基本的に社内にいる時間は男と一緒に行動することが多い。

一人で出来るであろう作業の時でも、男は必ずと言っていいほど付きまとってくる。

私を心配してか、己の私情によるものかは分からないが。

とりあえず作業は男が率先してやってくれるから、楽ではあった。

何時間も設備の動作を見るだけ、という仕事もあったから、めんどくさいおやじギャグも慰みにはなった。

時折、おやじギャグに笑ってしまうと、男は目を輝かせて追撃してくる。

超めんどくさい。

でもまあ、暇つぶしにはなった。

悪くはない、と思えるようになっていた。

時には男のギャグに素直に笑い、また男を笑わせようと試みるようにもなっていた。

肩の力を抜いてみれば、なぜこんなに気が合うのかと、不思議に思うほどになっていた。

そんなことをしていると別の先輩社員から「なにイチャついてるんすか」とか言われたが、

学生の頃に想像していた無機質な会社員生活とは無縁といえた。

 

あるとき、珍しくまじめな顔になった男に言われた。

あなたは優秀な社員たり得る。

経験上、あなたのような人は、社内のいろいろな部署を渡り歩くことになる。

ゆえに、一緒に働ける時間はとても短いだろう。

今のうちに学べることを学び、聞きたいことはすべて聞いておきなさい。

と。

 

少しだけ寂しい思いがしたのは、我ながら不覚だったと思う。

確か男も遠方の工場の工程改善のため単身で派遣されたり、

新設の技術開発部署に植民されたりと諸行無常の社歴を持っていると聞いていた。

 

1年が過ぎ、2年目の半ばまでは、ほとんど腐れ縁のごとく男と一緒に仕事をした。

そしてある日、本当にとつぜん自分の社歴が大きな転換期を見るのを感じた。

部長に呼ばれ、北米に飛んでもらいたいと告げられた。

 

社命だったから否も応もなかった。

そもそも業務命令による異動には従わなければならないと、社則に明記されていた。

男は寂しそうな眼をしたが、やはり否も応もなく、必要な手続きを淡々と説明してくれた。

そして北米に飛び、数年後には北米の別の拠点に飛び。

日本に帰ってくる頃には肩書がつき、ついでにフィアンセもでき、絵にかいたような満帆の人生にあることを認識していた。

ひさしぶりに男をからかってやろうと思い、社内名簿を浚ったが、男の名はどこにもなかった。

 

 

意識が戻ると、寝台の上だった。

男は反射的に、手術室だと思う。

それほどその部屋は白く、明るく、清潔だった。

ただ、いつから意識がなかったのか見当がつかなかった。

――気配。

白衣の痩せメガネが顔を覗き込んでくる。

メガネどうし見つめあうのも気色が悪い気がして、自分のメガネを探ろうとする。

しかし、手は動かなかった。

感覚はしっかりしているが、寝台に拘束されているらしい。

相手の痩せメガネが言う。

「お疲れさまでした。あなたはあなたの任務を見事、完遂されました」

意味が分からないので、表情で「?」を作る。

「新人の女の子を指導していたでしょう。彼女を一企業戦士として育て上げ、幸せな人生を歩ませる。

 その礎となることが、あなたの任務でした。

 あなたはその任務を立派に遂げられた。

 彼女は今や、あの会社の管理職であり、また……社会的にも信頼される身の上となった」

新人、女の子、彼女。

代名詞が、男の脳裏でゆっくりと実像となる。

「まだすこし混乱されているかもしれませんね。

 すこし、雑談でもしましょうか」

痩せメガネは男から視線を外し、思い出すような口調で話し始めた。

「人間というのは不思議なものです。

 生物学的にみれば皆ほとんど同一の脳を持ち、その脳があらゆる意思決定を司る。

 そう考えると、すべての人間が同じ性格で、同じ嗜好を持つほうがむしろ、当然のようにも思えます。

 しかしご存じの通り、人間の思考パターンは千差万別だ。

 これはどこから来るものなんでしょうね」

痩せメガネが少々芝居がかった仕草で男から視線を逸らす。

「このあたりの研究は科学というより、むしろ心理学で扱われるものです。

 ――ご存じですか、人間のものの見方、感じ方といった分野では、科学より心理学のほうがはるかに先を行っているのです。

 たとえばひとつのリンゴにしても。

 リンゴを目の前にしたとき、なぜひとはそれがリンゴだとわかるのか?

 科学では説明のつけようがありません。

 これは認知心理学の得意とするところです。

 それによれば、人間はまず、リンゴの輪郭――つまりおおざっぱな形を認識する。

 そしてその輪郭のうち、曲率が急激に変化する部分や、角の部分。

 これらを抽出・検知し、組み合わせることで、それがリンゴとしての特徴を満たしているかを判定しているんだそうですよ」

男が怪訝な顔をすると、痩せメガネは言葉を加える。

「つまり生まれてから、これがリンゴだよ、と見せられた物体の輪郭の、特徴的な部分を我々は学習している。

 つぎに未知の物体を見せられた時、我々はその輪郭を見て、学習したリンゴの輪郭と比較する。

 似ていればリンゴだと思う。

 ――だから、食品サンプルだろうと絵にかいたリンゴだろうと、リンゴの形をしていればリンゴだと思ってしまうんだ」

カップから液体を飲む間だけ、痩せメガネは黙っていた。

「さて、なんでこんな話をしたかというと、あながちただの雑談ではない。

 新入社員の子、覚えているでしょう。

 あの女の子を無事に、幸せな企業戦士として育てるのがあなたの任務だった。

 そのために、あなたは派遣されたんです。

 どうでしたか、あの子。

 きれいで明るくて朗らかで、あなたから見ても魅力的だったんではないでしょうか」

痩せメガネがにやりと笑うが、すぐにもとの無表情に還る。

「こう考えてみてください。

 あの子がご自分の娘だったとしたら、どうです。

 わけの分からん会社に放り込まれる。

 そこにはわけの分からん同僚や上司、男どもがうじゃうじゃいる。

 どう思います、父親として」

男はわずかに顔をしかめる。

「そうでしょう。

 それが普通の感覚です――父親としての。

 だから実際、彼女の父親も、同じ心配をしました。

 しかしそうはいっても、まさか娘につきっきりでいるわけにはいかない。

 至善の策が成らねば、次善の策。

 自分が娘のそばにいてやれないのであれば、信頼できる代役を立てればいい。

 理想的な先輩社員を送り込み、付きっ切りで指導させればよろしい。

 発想は突飛かもしれんが、まあ、そりゃそうだと思っていただけるでしょうか」

仕方なくうなずく。

「そこで次の問題が生ずる。

 理想的な先輩社員、とはどんな人間なのか、ということだ。

 残念ながらこんな哲学的な問題に一意の答などない。

 しかし、近似解はある」

ふたたび痩せメガネが液体を飲み下すのを、黙って待つ。

「要は、気が合う奴を送り込めばいいわけだ。

 気が合うとは、つまり対象の人間に対して共感力の高い人間、と言える。

 共感力とは何で決まるのか?

 そのあたりは発達心理学に踏み込むことになるが、話は簡単だ。

 人間はリンゴの形を学習するのと同じように、他人の心の構造もまた学習する。

 つまり長い間いっしょにすごした人間に対しては、おのずと共感力が高くなると考えられる。

 さらにその人間が遺伝的に近い間柄ならば、ニューロンの発火性質も類似点が多くなる。

 つまり――」

痩せメガネが男を直視する。

「彼女の親であれば、自然、彼女と共感する確率が非常に高い。

 彼女と長い間同じ時間を過ごし、遺伝的にも近しいわけだから。

 ――もちろん、実際の親は彼女と歳が離れすぎているから、様々な反発もある。

 だが、彼女の親と全く同じ思考パターンを持つ人間が、それほど歳の違わない先輩として現れたらどうだろうか」

痩せメガネに見据えられ、男は動けなかった。

「彼女の父親はアンドロイドを一体、発注して、彼女の会社に先輩社員として送り込んだ。

 そのアンドロイドには父親の思考パターンを模倣した脳神経プログラムが組み込まれていた。

 そのアンドロイドは思惑通り、彼女とよく気が合い、彼女をスムースに成長させた。

 そのアンドロイドが、君だ」

男は動けなかった。

痩せメガネが非情の宣告ののち、その場を離れ、なにか機械の操作を始めても、何も言えなかった。

指一本、動かす気になれなかった。

「もう一度言う、君はよくやってくれた。

 そして、これで終わりではない。

 君には次の職場に行ってもらわなければならない。

 もちろん、新しい人格として。

 いまから君をフォーマットし、新しい人格をインストールする。

 大丈夫、痛くもかゆくもない、少し眠くなるだけのことだ。

 ――じゃあ、な」

男の視界が真っ白になり、体が硬直するのを感じた。

次いで暗闇が訪れようとするとき

「――」

男は彼女の名前をもう一度だけ、呼ぼうとした。

 

 

たまにはこんな、徒然狸 ―タヌキの日記―

 

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親父性について

今週のお題「お父さん」

 

30代初頭までは、とにかく親父が苦手でした。

顔を合わすたび殴り合うとかそういうことではないんですが。

 

親父は一級建築士です。

本人も自覚しているように、回転が速いタイプではなく、突飛な発想が出るタイプでもなく。

おいらからみて、職人気質という感じも受け取れず、何か独特な感覚を持った、男、という風に感じていました。

親父がなにか、教訓めいたことを言うたび、相容れない感じがつきまといました。

要は、おいらとは歯車のギア比が合わない感じがして、盆暮れ正月に実家に帰っても言葉少なく、お袋とばかり話が弾み。

親父のほうがおいらに遠慮してくれてる感じさえしました。

ところが。

いつごろからか――。

たぶん、おいらが科学技術者としての、技術面でそれなりに、基礎ができつつある頃でしょうか。

「親父が何を言っているのか」はっきりとわかり始めた時が、確かにありました。

その瞬間以来、実家に帰ってお袋と話すより、親父と話すほうが確かに分かり合えているという感覚をもつようになりました。

げらげらと話が弾むわけではないのですが、親父が何か言ったら、ああそうだよね、だけどこうなんだよな――と、ふつうに会話できるようになっていました。

 

わかりません。

謎ですが。

つまり、やっぱり、親子だった、ってことなんでしょうか。

 

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ふたたびにおいについて

本性が化学屋さんなので、「におい」についてはいろいろ触れてきました

それがどうしたのかというと、本日、協力会社に出張して試作実験を行ってきたときのお話。

 

試作で、協力メーカーさんが用意したある薬品を使用し、なかなかいい結果が出ました。

これなら量産採用できそうです。

ただし問題として、その薬品は有機溶剤を含んでいました。

ようは、シンナーみたいなあれです。

なにが問題かというと、今検討中の製品はイギリス向けのもの。

日本とは違い、特に欧州圏では有機溶剤は有害物質として、輸出入や取り扱いが厳しく規制されています。

薬品に含まれている有機溶剤が規制にひっかかるものであれば、日本からイギリスへ輸送することすらできない可能性があるわけです。

 

何の溶剤を使用しているのかメーカーさんに聞いてみましたが、残念ながら調べてみないとわからないとのこと。

そこでおいらが「ちょっとにおいをかがせてください、たぶんわかりますから」とお願い。

するとおいらのいつもの冗談だと思ったらしく、居合わせた技術者が笑いました。

でもこれは冗談ではなく。

たぶん化学屋さんなら理解していただけると思います。

 

独断と偏見ですが、技術的な仕事空間で感じるにおいの大半は、いくつかの典型的な分子構造・原子構成をもっています。

実際に感じるのは脳が反応した感触のため(言ってみればテレパシーに近い?)、他人が共感できるような言葉にするのは困難です。

でも明らかに、におい物質の分子構造・原子構造によってにおいの特徴が大きく変化します。

おいらの感覚だと、たとえば・・・

エステル系:濃いと刺激臭だが、薄いと果物のような芳香になる、ちょっと複雑なにおい

・直鎖炭素系・環状炭素系:単純な無機質なにおい

・テルペン系:ヒノキなど樹木のような複雑なにおい、バニラのにおいもこれ

ベンゼン環系:石油のような、単純なにおい

・窒素原子を含むもの:なにか生物的なオエッとくるにおい、または火薬が燃えたにおい

・硫黄原子を含むもの:特徴的な不快な刺激臭

・塩素または臭素単体:漂白剤のにおい

・アルコール系:すっとする、または刺激的だが単純なにおい

アンモニア:薄いと眉間辺りにモジャモジャ感じる、濃いと頭の中に風が吹く感覚(危険)

などなど。

 

で、その薬品のにおいをかいだところ、明らかにベンゼン環系。

そして一般的な溶剤であるというところも考慮すると、かなりの確度でトルエンであろうと推定できました。

ためしにトルエンをよく扱う先輩に確認してもらったところ、「うん、トルエンだね」。

 

・・・トルエンが欧州圏に輸出できるのかどうかは宿題で調べときますが。

昔取った杵柄というか、やっぱりそれなりに、学校で学んだことは一生役に立つもんです。

 

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