そういえば2話まで掲載してそれから載せてなかった??
6話までできているので、3−6を載せます。
3.物質と混合物
先生「昨日習ったことを云ってごらんなさい」
タヌ「まず、ニトロと名の付く物質は危ない物とそうでない物があるが、すべて危険だと思っておいた方がいいという事。そして、やはり先生は信用できないということです」
先生「のっけからひどいことを云いますね。わたくしの云う事が信用できないのではなく、貴方が人の話をよく聞いていないだけではありませんか」
タヌ「しかし、実験を私にやらせてひとりだけ遠くに逃げて耳を塞いでいたのはどういういことですか」
先生「細かいことは気にしないでよろしい」
タヌ「・・・・はい」
先生「いい返事です。ところで手の方はどうですか?」
タヌ「今朝ようやく、新しいのが生えてきました」
先生「便利ですね」
タヌ「先生からはいつもいろいろな被害を被っているので、体の方が慣れてきたようです」
先生「それを免疫機能といいます」
タヌ「真顔で大嘘をこかないでください」
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先生「それでは、今日は物の性質を実際に利用した実験を行ってみましょう」
タヌ「それは危険な実験ですか」
先生「そんなことはありませんよ」
タヌ「ということは、危険なんですね」
先生「あなたも大分わかってきたみたいですね」
タヌ「おかげさまで。それで、なにをするんですか」
先生「これを使います」
タヌ「白い粉のようですね」
先生「そうですね。実際には、砂糖と砂の混じり合った物です」
タヌ「ああ、以前私が嘗めさせられた物ですね」
先生「そのとおり、ただ、わたくしが嘗めさせたのではなく、あなたが勝手に嘗めたのです」
タヌ「まあ、そういうことにしておいてあげましょう」
先生「賢明な判断です」
タヌ「ところで、この砂糖と砂の混じった物をどうするんですか」
先生「今日あなたには、この砂糖と砂を分けてもらいます」
タヌ「分けると云っても、どうすればよいのでしょう」
先生「よろしい、それでは方法を考えていきましょう」
タヌ「はい」
先生「まず最初に、砂だけを取り出す方法を考えます。この場合、砂糖はどうなってもかまいません。これなら簡単な方法があります」
タヌ「どんな方法ですか」
先生「そうですね、では手がかりをあげましょう。砂糖と砂のほかに、あなたにはガソリンと燐寸を与えます」
タヌ「ガソリンと燐寸、ですか」
先生「さあ、どうしますか」
タヌ「うーん、あ、そうか。砂と砂糖の混合物にガソリンをかけて、燐寸で火をつければいいのですね」
先生「そのとおり。砂糖はガソリンの炎で燃えてしまいますが、砂は燃えませんので、最後には砂だけが残ります」
タヌ「なるほど、これなら簡単ですね」
先生「では実際にやってみましょう」
タヌ「はい」
先生「ここに、ガソリンと燐寸があります。それでは、ガソリンをかけてください」
タヌ「はい、かけました」
先生「では、燐寸で火をつけましょう」
タヌ「ところで先生は、なぜそんな遠くにいるのですか」
先生「窓際が好きなのです」
タヌ「窓際族というやつですね」
先生「いいからはやく火をつけてください」
タヌ「はあ、いきます」
先生「・・・」
タヌ「・・・なにが起こったのでしょうか」
先生「マッチを擦った瞬間に発生する火花で、気化したガソリンに引火し、爆発したのでしょうね」
タヌ「まさか、最初から分かっていたのですか」
先生「とんでもない。・・・それよりほら、ガソリンとともに砂糖が勢いよく燃えていますよ」
タヌ「わたしの眉毛と前髪も勢いよく燃えていますね」
先生「そうですね。さて、そろそろ燃え尽きたようです」
タヌ「まだ黒いかすがありますね」
先生「そのかすは炭素の塊です。それももう少しガソリンをかけて燃やせばなくなってしまいますが、時間がかかるのでよしとしましょう」
タヌ「砂は少し黒くなっていますが、ちゃんと残っていますね」
先生「実験は成功しました。では次に、砂糖と砂の混合物の中から、砂糖を取り出す方法を考えてみましょう」
タヌ「これは難しそうですね。砂を燃やそうとすれば砂糖も燃えてしまいますし」
先生「では、これを使ってみましょう」
タヌ「なんですか、これは」
先生「ピンセットと、顕微鏡です。顕微鏡は小さな物を大きく拡大して見ることができ、ピンセットは小さな物を拾い上げるときに役立ちます」
タヌ「これでどうやって、砂糖と砂を分けるのでしょう」
先生「まず顕微鏡を使って、砂と砂糖の混合物を見てみましょう」
タヌ「きらきら光っている粒と、そうでない粒が見えます」
先生「きらきら光っている方が砂糖、そうでない方が砂の粒なのです」
タヌ「なるほど」
先生「では、ピンセットできらきらの粒を摘んで、この容器に移してみてください」
タヌ「・・・なかなか神経を使う作業ですね」
先生「そうですね。しかしこれを繰り返すことで、砂と砂糖を分離することができるのです」
タヌ「それはそうでしょうね」
先生「それでは、がんばってくださいね」
タヌ「それは、どういう事でしょうか」
先生「明日の授業までに、砂と砂糖を分けておいてください」
タヌ「この方法でですか」
先生「その方法でです」
タヌ「それは非常につらい作業なのですが」
先生「有名な言葉に、学問に王道なし、というのがあります。何かを学ぶという事は、たゆまぬ努力が必要なのです」
タヌ「そんな」
先生「それに、苦労して体得したことは必ずや貴方の糧となります」
タヌ「なんだかだまされている気がします」
先生「とんでもない、わたくしは至極まじめですよ」
タヌ「そうですか」
先生「では、がんばって」
タヌ「はい」
4. 溶液
先生「おはようございます」
タヌ「おはようございます」
先生「砂糖は分離できましたか」
タヌ「砂糖は分離できましたか」
先生「・・・」
タヌ「・・・」
先生「本日は晴天なり」
タヌ「本日は晴天なり」
先生「どうやら壊れてしまったようですね」
タヌ「どうやら壊れてしまったようですね」
先生「・・・ふむ、作業は完了しているようですね」
タヌ「・・・ふむ、作業は完了しているようですね」
先生「・・・はい、そろそろ起きなさい」
タヌ「・・・あ、先生、おはようございます」
先生「・・・おはようございます。砂糖は分離できているようですね」
タヌ「はい、二時間前にようやく終わりました」
先生「おつかれさまです」
タヌ「とても疲れたので今日の授業は」
先生「もちろんやりますよ」
タヌ「やはりそうきますか、今日も実験ですか」
先生「実験です。科学の基礎というものは実験で学ぶのが一番効果的なのです」
タヌ「命がけで」
先生「そんなときもあります」
タヌ「嘘ですよね」
先生「嘘は嫌いです」
タヌ「・・・」
:
:
先生「昨日は混合物を分離する方法を学びました」
タヌ「燃やしたり、ピンセットを用いたり、とても化學を学んだ気分ではありませんでしたが」
先生「化學を学ぶ上では、そういったいろいろな経験も併せて必要になります」
タヌ「そうなんですか」
先生「さて、昨日あなたは砂糖を顕微鏡で観ましたね」
タヌ「はい、いやと云うほど観ました」
先生「何か気づいたことはありましたか」
タヌ「そうですね、砂糖の粒は、きらきら光っていました」
先生「他には」
タヌ「砂糖の粒は、どれも似たような形をしていたように思います」
先生「そうでしょう。実はわたくしが、すべての砂糖の粒を磨いて、同じ形に整えておいたのです」
タヌ「嘘ですよね」
先生「本当だと云ったら信じるのですか」
タヌ「先生ほど執念深い人なら或いは」
先生「おだまりなさい」
タヌ「はい」
先生「さて、砂糖の粒がみな同じ形をしているのは、砂糖が結晶になっているからです」
タヌ「結晶」
先生「結晶の作り方は簡単です。熱い湯に砂糖を多く溶かし、湯を冷ますだけで結晶は析出します」
タヌ「是非やってみたいですね」
先生「よろしい、ではこれの結晶を作ってみましょう」
タヌ「白い粉のようですね。砂糖ですか?」
先生「貴方は白い粉を観ると常に砂糖だと考えるのですね。残念ながら、これは砂糖ではありません」
タヌ「では、それはなんですか」
先生「嘗めてみれば分かりますが、まあそれはやめておきましょう」
タヌ「なぜですか」
先生「青酸カリなので」
タヌ「また、恐ろしい物を持っているなあ」
先生「青酸カリを観るのは初めてですか」
タヌ「あたりまえです。・・・すこし、よく見せてください」
先生「ああ、匂いは嗅がない方がいいですよ」
タヌ「なぜですか」
先生「青酸ガスを吸うと即死ですので」
タヌ「そんな危険な物を安易に渡さないでください」
先生「貴方が見せろと云ったのでしょう」
タヌ「まさか、顔に近づけただけで死ぬとは思わなかったので」
先生「一つ賢くなりましたね」
タヌ「おかげさまで」
先生「さて、それでは青酸カリを水に溶かしていきましょう」
タヌ「怖いので先生がやってくださいね」
先生「わたくしがやったのでは貴方の勉強になりませんので、ここはやはり貴方がやりなさい」
タヌ「絶対にそう言うと思っていました」
先生「でしょうね」
タヌ「それで、どうすればいいのですか」
先生「ここにある試験管に水と青酸カリを入れて火にかけるだけです」
タヌ「ガラスの管を火にかけたら、割れてしまうでしょう。さすがにそんなことには騙されませんよ」
先生「甘いですね。そこに嘘はありません。試験管を火にかけても割れはしないのです」
タヌ「信じがたいですね」
先生「よろしい、やって見せましょう」
タヌ「第四話にして初めて先生が実験をするのですね」
先生「五月蠅いですね。さて、どうです。試験管をガスバーナーの火にかけても割れません」
タヌ「本当だ。不思議だなあ」
先生「試験管やフラスコなどは、超耐熱の特殊なガラスでできています。だから、温度変化にとても強いのです」
タヌ「なるほど」
先生「では、今加熱した試験管を水に漬けてみてください」
タヌ「超耐熱ですからね、水に漬けたくらいでは・・・ああ、おどろいた。試験管が割れてしまった」
先生「しかも水蒸気爆発まで起きたようですね」
タヌ「どういうことですか、これは」
先生「超耐熱ガラスだからと云って、火であぶった物をすぐ水に漬けるなどと云う愚かなことをすれば当然割れてしまうのです」
タヌ「先生がやらせたんじゃないですか」
先生「やったのはあなたです」
タヌ「理不尽です」
先生「まあ、これで分かったとおり、試験管はふつうに火であぶったくらいではわれないのです」
タヌ「はあ」
先生「それでは青酸カリに戻りましょう、試験管に水と青酸カリを入れて、火であぶってご覧なさい」
タヌ「わかりました。やってみます」
先生「気をつけてくださいね」
タヌ「・・・」
先生「・・・」
タヌ「わあ、びっくりした」
先生「見事ですね」
タヌ「一瞬にして、試験管の中身が蒸発してしまいました」
先生「いえ、それは蒸発したのではありません。突沸が起きて、試験管の中身が外に吹き出したのです」
タヌ「なぜでしょう」
先生「貴方は試験管をじっと持ったまま火にかけていました。これでは、中の水が一部分だけ熱せられて、突沸してしまうのです」
タヌ「そうだったんですか」
先生「突沸をさけるためには、炎がまんべんなく水に当たるようにし、試験管を常に揺り動かしておく必要があります」
タヌ「そう言うことは早めに云ってくださると助かるのですが」
先生「わたくしが云って教えるより、自分で体験した方が確実に身に付きます」
タヌ「云うのを忘れていたわけではないですよね、もちろん」
先生「もちろんです」
タヌ「ところで、試験管の中には水の他に、青酸カリも入っていたと思うのですが」
先生「それも吹き出して教室中に散らばってしまったようですね」
タヌ「どうしましょう」
先生「後で掃除しなさい」
タヌ「とほほ」
先生「さて、今度は突沸に気をつけてやってみましょうか」
タヌ「はい」
先生「・・・」
タヌ「・・・」
先生「水が沸騰してきましたね」
タヌ「わわ、今にもあふれそうです」
先生「あふれそうになったらいったん火からはずすのです。そして、沸騰が収まったらまた火に近づける」
タヌ「なるほど、穏やかに沸騰しています」
先生「さて、青酸カリはすべて溶けたようなので、もう少し加えてみましょう」
タヌ「はい」
先生「・・・」
タヌ「もう、これ以上は溶けないように見えます」
先生「ではそこに水を少し加えてください」
タヌ「あ、すべて溶けました」
先生「よろしい、ではそれを火から下ろして、冷ましましょう」
タヌ「・・・」
先生「・・・」
タヌ「やや! 先生、試験管の中になにか透明な粒ができています」
先生「ああ、それが青酸カリの結晶です。これ一粒で、人が一人殺せるんですね」
タヌ「・・・そんなことをうっとりと云わないでください」
先生「おっと」
タヌ「それで、これはどうするですか」
先生「液を他の容器にあけて、ガラス棒で結晶を取り出してみましょう」
タヌ「どれも決まった形をしていますね」
先生「結晶ですからね」
タヌ「嘗めてみてもいいですか」
先生「どうぞ」
タヌ「・・・」
先生「・・・」
タヌ「止めないんですか」
先生「貴方もまさかそこまで愚かだとは思っていませんので」
タヌ「ひどい云い様ですね」
先生「では、教室の掃除をよろしくお願いします」
タヌ「はい・・・」
先生「そうそう、換気をよくしておかないと死にますので」
タヌ「手伝ってくださいよ」
先生「ああ、急にお腹が」
タヌ「もういいです」
5. 融解と凝固
先生「昨日學んだ事を云ってご覧なさい」
タヌ「砂糖や青酸カリをお湯に溶かして冷ますと結晶がでると云うこと」
先生「ふむ」
タヌ「そして、いつか先生に殺されるということです」
先生「まあ、わたくしがそんなことをするはずがないじゃありませんか」
タヌ「そうあってほしいものです」
先生「なにかおっしゃいました?」
タヌ「いえべつに」
先生「そうですか。後で職員室にいらっしゃい」
タヌ「ぶつぶつ」
:
:
先生「さて、今日はこれを使います」
タヌ「ああ、温度計ですね、それくらいなら知っています。物の温度を測る道具ですね」
先生「そうですね」
タヌ「まあ先生のことですから、ふつうの使い方はしないでしょうけれど」
先生「なにをぶつぶつ言っているのですか」
タヌ「いえべつに」
先生「あなたは温度計の使い方を知っているのですね」
タヌ「ええ、もちろんです」
先生「では、このアルコール温度計を使って、ここにあるお湯の温度を測ってみなさい」
タヌ「ぐつぐつと沸騰してすごく湯気がでていますね」
先生「さぁ、どうぞ」
タヌ「温度計の先をこのお湯の中に入れます。あとは、しばらく待てばいいのです」
先生「・・・」
タヌ「・・・」
先生「そろそろいいのではないですか」
タヌ「そうですね、ええっと、温度は・・・あれ、あれ、先生」
先生「どうしました」
タヌ「いつもならアルコールの赤い線が見えるはずなのに、今日は見あたりません」
先生「ああ、今日は節分だから」
タヌ「関係ないと思います」
先生「そうですか、それでは温度計を引き上げてよく見てみましょう」
タヌ「あれ、大変です、温度計が壊れてしまった」
先生「温度計はどんな様子ですか」
タヌ「液だめの部分にさっきまで入っていたアルコールがなくなっています」
先生「そして」
タヌ「そして、赤い小さな石が入っています」
先生「でしょうね」
タヌ「どういうことですか」
先生「先ほどわたくしはこの液体をお湯だと云いましたが、実はそうではないのです」
タヌ「では、この液体は何なのですか」
先生「液体窒素です」
タヌ「えきたいちっそ」
先生「液体窒素とは、空気の主成分である窒素をマイナス190度にまで冷却し、液体にした物です」
タヌ「マイナス190度!」
先生「そこにアルコール温度計を入れると、アルコールはあっと云う間に凍ってしまうのです」
タヌ「この小さな赤い石は、凍ったアルコールなのですか」
先生「そのとおりです」
タヌ「こんなのは初めてみました」
先生「そうでしょう」
タヌ「しかし、どうしてこんな実験をしたのですか」
先生「ひとつは、貴方に様々な経験をさせるためです」
タヌ「もうひとつは」
先生「貴方が温度計の使い方を知っていると得意げだったので、すこしへこませようと思いまして」
タヌ「ひどいなあ」
先生「さて、この温度計には目盛りがついていますね」
タヌ「ついています」
先生「この目盛りは、どうやってつけるか、知っていますか」
タヌ「もちろんです」
先生「では、この0度のところはどのような基準ですか」
タヌ「それは、氷水の温度です」
先生「それでは、この100度のところは」
タヌ「そこは、水が沸騰する温度です、あとは0から100の間を100等分して目盛りを書けばいいのです」
先生「ちがいますね」
タヌ「そんなはずはありません」
先生「貴方の云ったのは、摂氏温度計の場合ですね。しかしこの温度計をよく見てみなさい」
タヌ「ああ、これは華氏温度計だ」
先生「そのとおり」
タヌ「では、華氏温度計はどのように目盛りをふるのですか」
先生「現代の厳密な定義とは異なるかもしれませんが、一番もととなったと云われる基準はこうです」
タヌ「はい」
先生「まず0度ですが、これは氷に塩をかけると得られる温度で、だいたい摂氏−18度くらいです」
タヌ「なぜそんなに氷の温度が下がるのですか」
先生「それはまあ、いずれ習うかもしれません。習わないかもしれません」
タヌ「はあ」
先生「つぎに、華氏0度を決めた温度計を、羊の肛門に突き立てます」
タヌ「先生、とうとう」
先生「いえ、これは本当です。華氏100度は羊の体温で、だいたい摂氏37.5度なのです」
タヌ「不思議な基準ですね」
先生「本当ですよ」
タヌ「そうでしょうね」
先生「疑っている目をしていますね」
タヌ「まさか。私が先生を疑うなんて」
先生「・・・」
タヌ「・・・」
先生「わたくしたちの目の間に火花が散りましたね」
タヌ「バチバチという大きな音もしました」
先生「これを火花放電といいます」
タヌ「はいはい」
6, 蒸發と沸騰
先生「昨日の話は何でしたか」
タヌ「はい、自分の知っていることを得意げに話すと先生にへこまされると云うこと」
先生「そして」
タヌ「そして、氷に塩で、羊の肛門です」
先生「よろしい」
タヌ「全然よろしくないのは気のせいでしょうか」
先生「気のせいです」
タヌ「ああ、そうだ、液体窒素も使いましたね」
先生「そのとおり、よく覚えていましたね」
タヌ「先生は忘れていたようですね」
先生「とんでもない」
タヌ「先生は嘘をつくとき、右上を見上げる癖があります。今、先生は右上を見上げています」
先生「それは、わたくしが嘘をつくときに右上を見上げる、というデーターが間違っていることになりますね」
タヌ「そうですかね」
先生「さて、では今日もすばらしい授業を始めましょうか」
タヌ「また右上を見ていますね」
:
:
先生「さて、貴方は昨日、これが何か學びましたね」
タヌ「温度計ですね。學んだというか初めから――」
先生「何か云いましたか」
タヌ「いえ」
先生「貴方は水が沸騰する温度を知っていましたね」
タヌ「はい、100度です」
先生「ビーカーに入った水を、下から火であぶって加熱するとします」
タヌ「はい」
先生「水が沸騰したとき、ビーカーの中はどこも100度であるとおもいますか」
タヌ「そう思います・・・いや、どうでしょう。場所によって温度が違うかもしれません」
先生「なぜそう思いますか」
タヌ「だって、お風呂をわかすときはよくかき混ぜないと、きちんと温度が測れないではないですか」
先生「ふむ、では実験してみましょう」
タヌ「・・・わたしがやるんですよね」
先生「もちろんです」
タヌ「ええっと、まず三脚を用意して、その上にビーカーを乗せる・・・」
先生「お待ちなさい。石綿付き金網を敷きましょう。ビーカーが割れるのを防ぐために」
タヌ「はい、そして、ガスバーナーで下から加熱すればよいのですね」
先生「そうです」
タヌ「・・・」
先生「・・・」
タヌ「さあ、沸騰してきました」
先生「では、温度計で水の温度を測ってみましょう、まずは水の上の方から」
タヌ「・・・100度ですね」
先生「ビーカーの底の方ではどうですか」
タヌ「やや! 120度もある」
先生「・・・」
タヌ「嘘です、やはり100度です」
先生「今日は挑戦的ですね」
タヌ「ごめんなさい」
先生「さて、沸騰したお湯はビーカーの中のどこでも100度ですね」
タヌ「なぜでしょう」
先生「簡単なことです。沸騰の時に水蒸気の泡が生じるせいで、お湯がいつもかき混ぜられていますので」
タヌ「なるほど」
先生「さて、その水蒸気ですが、1グラムの水が沸騰すると、いったい何グラムの水蒸気がでますか」
タヌ「1グラムです。これを質量保存の法則といいます」
先生「ではっ、1グラムの水からできる水蒸気は何ccになるかは知っていますかっ」
タヌ「・・・授業の予習をしておくと機嫌が悪くなるのは、たぶん先生くらいです」
先生「どうなのです」
タヌ「・・・約1500ccです」
先生「それはなぜですかっ」
タヌ「分かりません」
先生「水分子は分子量が極めて小さいが分子骨格が直線形でないために常温では強力な分子間水素結合を形成し液体でいるけれど高温になると分子の運動量が増大しもはや水素結合では分子間の結合を維持できなくなり水分子各々が自由に空間に広がっていく状態すなわち気体になるためですっ」
タヌ「・・・はい」
先生「はぁはぁ・・・」
タヌ「先生、血圧が・・・」
先生「わたくしは低血圧なのでこれでちょうどいいのです」
タヌ「そうですか・・・ところで、疑問なのですが」
先生「なんですか」
タヌ「水は水蒸気になると、本当に1500倍にもなるんですか」
先生「あなたがそう云ったのでしょう」
タヌ「それは教科書に書いてあっただけで」
先生「よろしい、では実験をしてみましょう」
タヌ「どうやるんですか」
先生「実際に体積をはかってみれば分かることですが、退屈なのでやめましょう」
タヌ「では」
先生「体積が増える様子を実際に体験してみましょう」
タヌ「これまでの経験から、化學を体験するのはあまり健康に良くない気がするのですが」
先生「学問に王道無しです」
タヌ「うーむ」
先生「それでは、この鉄でできた立方体をるつぼばさみでつかみ、ガスバーナーであぶってください」
タヌ「水を温めるのではないのですか」
先生「いいからやりなさい」
タヌ「はい・・・こんなもんでいいですか」
先生「まだまだです」
タヌ「・・・だんだん鉄が赤くなってきました」
先生「もっとです」
タヌ「・・・全体が黄色くなってきました」
先生「そろそろいいですね。それではその鉄を、この、ビーカーの水の中に入れてください」
タヌ「・・・なぜそんなに遠くから指示を出すのですか」
先生「ひなたぼっこです、それより早く入れなさい」
タヌ「はい」
先生「・・・」
タヌ「・・・」
先生「生きてますか」
タヌ「かろうじて」
先生「それはよかった」
タヌ「今のは何事ですか」
先生「水蒸気爆発です」
タヌ「前にも聞いたような言葉ですね、どういうことですか」
先生「赤熱した鉄を水に入れると、鉄の周りの水は急激に熱せられて水蒸気になります」
タヌ「ふむ」
先生「このとき、水の体積は一気に1500倍まで爆発的に膨れ上がるのです」
タヌ「それは危険なのではありませんか」
先生「ええとても」
タヌ「なんてことを・・・もうつっこむ気にもなれません」
先生「新たな境地が開けましたね」
タヌ「おかげさまで」