徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

マイコプラズマとクロスコンタミ

コンタミネーション……培養系に意図しない微生物やウィルスなどが混入し、汚染されること。
ひとたび発生すれば実験データの信憑性が一瞬で崩れる可能性も高い。
 
最近、マイコプラズマに関する情報を入手したので、コンタミについて若干目を向けています。
マイコプラズマは肺炎を引き起こす病原体ですが、実は枯草菌などのように割とその辺にいるそうで。
このマイコプラズマによるコンタミが結構怖いそうなんです。
普通、培養系に菌やウィルスなどが混入すると、目に見えて異変が起こったり、目的の生体が死滅してしまったりすることが多いので、割とすぐにわかったりします。
しかし、マイコプラズマの場合、本来の培養系と共存してしまうことが多い上、細菌類等に比べてサイズが小さいため、非常に発見しにくいのです。
米国の事例では、研究対象の細胞のDNAを分析するはずが、マイコプラズマのDNAを分析し続け、二年間を無駄にした学者もいたらしく。
恐ろしいもんです。
また、80年代だかに細胞株の販売が開始された頃、某有名研究所が販売前にマイコプラズマコンタミ検査をしたところ、なんと全体の40%の細胞にコンタミが確認されたとか。
 
そしてこれは、昔の話ではないんですね。
ロスコンタミネーション、というものがあります。
例えば研究室で二種類の細胞を培養していて、その二種類が知らないうちに混ざってしまうのが、クロスコンタミです。
なんとマヌケな、という感じですが、そうではない。
今現在、細胞バンクから出荷されている動物の培養細胞にはクロスコンタミの疑いのあるものが含まれています。
実は、こういった動物(ヒトを含む)の細胞株(培養細胞)を、「これはどの動物のどこの組織の細胞だ」とある程度同定できるようになったのは、ごく最近のことらしいのです。
……菌類やバクテリアの研究は古くから行われてきたため、個体同定の定石は80年代にはすでに確立されていましたが、その定石は培養細胞には適用出来なかったそうです。
90年代に近づき、比較的容易にDNA解析が行えるようになって初めて、培養細胞の同定が行えるようになってきました。
そしてびっくり。
某有名細胞バンクのヒト由来培養細胞のうち、実に5%にクロスコンタミが確認されたそうです。
……マイコプラズマの時の40%よりはマシに見えますか?
そうでもありません。
マイコプラズマの事例では、販売前に発覚したのです。
それにマイコプラズマコンタミしていても、まあ細胞自体は本物なので影響を受けない研究も比較的あるでしょう。
しかし、クロスコンタミの5%は、ずっと販売していた細胞が実は全然違う細胞でした、てへっ☆ ということ。
渦中の科学者は一体どうしたんでしょう。
考えたくもありません。
 
しかも話は終わりじゃない。
細胞バンクから出荷されている培養細胞のクロスコンタミは、いまも続いています。
私の見た資料(2004年初版、2006年増版)によれば、ヒト由来培養細胞に20種類くらい、クロスコンタミが確認されていることが分かっているとのこと。
リストになっていました。
その中には既にカタログから削除されているものもあるが、事情によりまだ販売されているものもあるらしく、これから購入する人は気をつけるようにとのことでした。
また、マイコプラズマコンタミも依然として存在するそうです。
 
製品品質に対して非常にこだわる日本で、こんな事例があったのが驚きです。
ひょんなことから科学の最先端の壁を垣間見ました。





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