徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

吸着実験とヤケクソ培地

作成した基板に、培地(培養液)中のイオンがどれくらい吸着するかを測定してみた。
……あれ?
培地中のイオン濃度は下がっているどころか上がっている。
意味がわからない。
暫く考えた後、ある可能性に思い当たり、検証実験をしてみる。
うん。
予感的中。
基板が溶けてるわ。
……。
ガッデム!
実はこの培地、イオン吸着実験用に調製した10倍濃度のもの。
普通、培地は調製した後に、細胞にとって居心地がいいようにpHを調節してやる。
しかし、今回の十倍培地は別に細胞を生かすための物ではないのでpH調整はしなかった。
そしたら運悪く、基板が溶け出すようなpHになっていたらしい。
あーあ。
じゃあpH調整をすればいいじゃない、と思われるが、実はそう簡単なことではない。
この実験は事情により無菌状態で行う必要がある。
つまり、作った培地は滅菌しなければならない。
滅菌は基本的に、培地を加熱することで行う。
ところで、培地のpH調整は炭酸水素ナトリウム(重曹)で行うが、炭酸水素ナトリウムは加熱すると分解してしまう。
そこで、
1.培地を加熱滅菌する
2.炭酸水素ナトリウムを水に溶かす
3.炭酸水素ナトリウム水溶液を、菌が通過できない特殊なフィルターでろ過し、培地に加える
ということを、通常はする。
しかし、十倍濃度の培地の場合はこれができない。
「十倍濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液」が作れないからである。
単純に溶解度の問題で。
ということは、培地に直接、炭酸水素ナトリウムの粉末を加えるしかないが、粉末にだって菌はついている。
この菌を除去するには専門的な設備が必要なので、うちでは無理(γ線滅菌、電子線滅菌、毒ガス滅菌など)。
……こうなったら最終手段である。
1.培地を調製する
2.炭酸水素ナトリウム粉末を入れる
3.完成した培地をまるごと滅菌フィルターに通してしまえ
……滅菌フィルターに通すと培地の成分が吸着され、組成が変化してしまう恐れがある。
無視!
とりあえず、培地に炭酸水素ナトリウムを放り込む。
……。
謎の沈澱が発生。
恐らく、十倍濃度の培地のpHを変化させたことで、溶け切れない成分がでてきたんだろう。
無視!!
濾過して沈澱を取り除く。
そして培地全部を滅菌フィルタに通す。
できた!
命名「YMEM(ヤケクソ改変イーグル培地)」。
(有名な「DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地:「イーグル培地」をダルベッコ氏が改良したもの)」のパクリ)
……無茶苦茶である。
だが実は今回の実験では、培地の中の一部の成分だけを観測するので、そいつらが無事ならばあとは割とどうでもいいのです。
……で、それらの成分が無事かどうかは明日分析……。
多分ダメだけど。
ちなみにダメだった場合のプランは二つ。
1.炭酸水素ナトリウムにこだわらず、水酸化ナトリウムでpH調整してしまえ!
2.諦めてしまえ!
……うーむ。
悩ましい。
だけどまあ、面白い。
 
= = =
 
タヌキに聞いてみようのコーナー。
今日の日記ですが……
「うるさい黙れ、ここは日記ではない実験ノートだ」
それでは、また。
 
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あ、日記書いてたらいいアイディアが浮かんだ。
ラッキー。





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