徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

GC‐MS…

君がいなくなって、何だか部屋ががらんとしちゃったよ…。
 
というわけで、研究室閉鎖に伴いマスが機器測定室に運ばれていきました。
分子ターボポンプのうなりもなくなり、振とう培養機の騒音だけが虚しく響きます。
MSがあった場所にはぽっかりと空間が広がり、隠されていたはずの窓からは大空が見えていました。
空を見ていると、この空虚な印象によく調和する比喩が見当たりました。
ふっと遠のいた喧騒。
占有から開放された空間。
ずっと目に触れていなかった場所が露呈する感覚。
「娘を嫁にやるとこんな気分なんだろうな」
 
= = =
 
「人生の一連の流れの中で、人は誰かと出会ったのと全く同じ数だけ、別れを経験するんだ」
差し出された指輪を軽く押し返しながら僕は言った。
「その連続性に対する認識は、時間の流れ自体に対するものと何等かわらない。
具現化して見えるのは単に、「今現在」の一瞬だけで、残り全ては普遍的で電信テープのように平べったいものだ。
……だからその指輪は、取っておいてくれないか。
平べったい物語からマテリアライズした、一つの記憶として」
 
                                                ――「小説としての記憶」





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