徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

デジタルと昔話

さすがデジタルですな。
格が違います。
 
えーと。
私はずっと無線ヘッドホンをパソコンにて愛用しています。
無線は良いですぞ。
なんたってケーブルがない 笑
で、これまで二台使ってきましたが、このたび三代目を購入いたしました。
いやね、耳あてのスポンジが、大体1〜2年くらいでぼろぼろになって、買い換えざるを得ないんですな。
そして、今回買ったのはこちら
これは今までのとはちょっと違います。
今までのは赤外線信号を利用した無線ヘッドホンだったわけです。
しかしこれはデメリットが多い。
まず、ノイズ。
PCが無音時でも、どうしても「サーーー」という音が入ってしまいます。
そして有効半径は5m程度。
遮蔽物が入るとそれ以下です。
しかし今回のは、デジタル信号。
2.4GHzの超短波で情報を伝達するタイプです。
これが素晴らしい。
まずノイズがない。
音声出力がなければ、全くの静寂です。
有効距離もすごい。
うちの狭い家なら、家中ほぼどこにいても聞こえます。
壁があろうがタンスがあろうが関係ありません。
送信機はUSBに差し込むだけ。
メーカーはONKYOなので、音質は申し分なし。
耳あてもスポンジではなく、耳に密着するタイプなので周囲の騒音もシャットアウト。
素晴らしいムスカ君。
・・・ただ、問題が。
MIDIの音は聞こえないのである。
USBから音声出力をする以上、音声はPCに搭載されているサウンドボードではなく、USB送信機で作られます。
つまり、USB送信機=サウンドボードとなるわけです。
そして、このUSB送信機にはMIDI音源は搭載されていないようで、MIDIの音楽は聴くことが出来ないのでした。
時代の流れを感じます。
 
今は音楽といえばmp3、wmaoggとかそのあたりの名前しか出ません。
でも、音楽といえばMIDI、そんな時代がありました。
・・・確かにあったはずなのです。
我々は日々、インターネットでMIDIを収集していました。
ソフトウエア音源をインストールして、おお、と感動していました。
現在のmp3などの音楽データが「音」だとすれば、MIDIは「楽譜」です。
それゆえ、MIDIの音楽データはその製作者、再生するPCによって大きく質の異なるものでした。
非常に緻密に作られたMIDI、変り種のMIDI、そんなものを集めては、自慢しあった日々がありました。
・・・しかしいつからか、mp3をはじめとする「音そのものをパソコンに保存する」手法が台頭し始めました。
MIDIの魅力のひとつは、ファイルサイズの小ささです。
現在の音楽データは、1分につき大体1MBのファイル容量となります。
しかしMIDIは、通常一曲あたり10KB程度。
どんなに大きいものでも100KB程度なのです。
それは、ハードディスクの容量が1GBとか、それ以下の時代にも受け入れられるものでした。
ところが技術は進歩し、店頭には数十GB単位のハードディスクが並び始め、
やがて百GB単位になり、ついにはTB単位のハードディスクユニットまで発売されるようになりました。
マルチメディアデータの圧縮技術も進歩し、1分10MBだったデータをほぼ劣化させることなく、1MBにまで圧縮する技術が誕生しました。
・・・最早、音楽データはハードディスク容量を脅かすものではなくなりました。
 
また同じ頃、急激に一般化した法律用語があります。
著作権」。
今は誰でも日常生活の中で、当たり前のように意識しているこの言葉は、当時はまだそれほど一般的なものではありませんでした。
MIDIによる楽曲は通常、「本物の音楽」を聞いた人間が、それを「楽譜」に書き起こすことで作られます。
しかし、「奴ら」は、MIDIによる楽譜データが著作憲法に抵触する事に気づきました。
MIDI狩りの始まりです。
 
こうして、MIDIは文字通りあっという間に、圧縮音楽に駆逐されていきました。
そして、パソコンにはMIDI音源が搭載されているにもかかわらず、「MIDI」という単語すら知らない世代が誕生しました。
MIDIは最早、Webサイトのちゃちな装飾品としてのみ、一般の目に触れるだけになりました。
それでも私はときどき、HDDの片隅にあるMIDIファイルを再生してみたりします。
そして、古き良き時代に置いてきてしまったものの多さを思い、ぞっとさせられるのです。





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