徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

非常事態について

 
※この記事は直木賞作家 浅田次郎先生もしばしばエッセイに書くほど大好きな、クソひりの話です。
 
先日、サイクリングに出ていた時のことである。
帰り道、ラーメン屋があった。
そういえば同僚がオススメしていた店だった。
背油醤油系だが意外とあっさりしており、価格はべらぼうに安い。
ネギ多めトッピングしたら支払額が1.5倍くらいになるレベルである。
それでいて、きっちりおいしい。
いやー、いいもの食ったー、と思い自転車をこぎ出して1分後。
急にクソがしたくなったのだった。
もちろんラーメンの質のせいではない。
おそらく直腸直上にてわだかまっていたクソが、ラーメンに押され自己主張に及んだ結果と思われた。
 
事態は緊迫していた。
台風の勢力でいうならば「非常に強い」を通り越して「猛烈」であった。
進路上にはコンビニがあったが、そこでトイレを借りるのはためらわれた。
もしも一つしかないトイレに先客がいたとしたら。
それはカタストロフを意味している。
――土俵際。
ほとんど自転車のサドルでフタをしている状態であった。
しかし神は私を見捨ててはいなかった。
高校時代、毎週水曜日の早朝礼拝に欠かさず勝手に出席していたのが報われたのかもしれない。
進路の先に神の国はなかったが、我が社があった。
 
我が社はメーカーであり、本社は工場併設である。
そのため休日でも生産現場の人間や試作試験をする人間は出社していることが多い。
クソをひりに入ったら知り合いに出くわす可能性は十分にあった。
しかもその日はサイクリング向けの軽装であったから、巡回の警備員に見とがめられる可能性もあった。
しかしそんなことはどうでもいい。
CPUはトイレへの侵入経路を全力で計算していた。
社員証を携行していないため正門からの正面突破は危険だ。
セキュリティの甘い裏口の通用口をひっそり抜けるしかない。
幸い、裏口近くにある体育館はセキュリティがかかっておらず、一階部分にトイレがある。
駐輪場に自転車を乗り捨て、早歩き。
脚の筋肉と括約筋とのパワーバランスを精密にコントロールする必要があり、もはや走ることはできなかった。
ほとんどすり足でトイレに滑り込む。
個室のドアを閉める余裕すらなかった。
そして私は、やりとげた。
体育館から出るとビルメンテ業者の人とすれ違ったので、
お疲れ様でーす
と軽やかに挨拶をした、サイクリング服装の不審者。
 
徒然狸 ―タヌキの日記―
 

筆者は盲導犬を尊敬し、個人的に応援しています。
https://www.moudouken.net/





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