徒然狸 -タヌキの日記-

――空。美しい空。悲しい空。何かを置き忘れてきてしまったような、空。

夏の終わりについて

 
その町には頻繁に軍用機が飛来した。
 
正確には、隣町の空軍基地で発着する機の離着陸経路になっているらしかった。
おかげで対潜哨戒機や戦闘機、輸送機に飛行艇、空中管制機などを日常的に拝むことができ、ミリタリ好きにはなかなか楽しめる。
ただ、これまで空軍基地に足を運んだことはなかった。
 
夏休みが終わりかけていた。
空には盛夏が十分に残っていたが、それでもツクツクボウシの声が響き始めており。
それは正体のない焦燥と漂白の思ひとを否応なく掻き立てた。
要は暇であった。
最後の数日くらいは自宅で静養しようと予定を空白にした結果である。
生来インドア派であったが、頭と体とを万遍なく使用する職業柄か、何とはなしに外出が好きになっていた。
走るのは苦手だが幼少より自転車が好きだったので、最近では遠出をしてGPSで記録をつけたりなんぞもしている。
 
件の空軍基地は隣町にある。
町と町の間は穏やかな丘陵地が隔てていたが、されど隣町である。
自転車で行けばいい運動になると思った。
 
それがいけなかった。
 
遠望する丘陵地は緑が生い茂り、蝉の声に包まれ、穏やかな稜線を描いていた。
住宅も散在しており、自販機など給水ポイントも存在する。
途中のぼりがきつくなれば、まあ自転車を押せばよかろう。
などと思っていたが、ふたを開けてみれば軽い山越えであった。
 

 
確かに最初のうちは傾斜も穏やかだったが、それがアップダウンとなり延々続く。
そのうちに自転車を押すことになり、上り切ったと思ったらまたダウン。
降り切ったらまた自転車を押す。
野を越え丘を越え、竹林を駆け下りコンクリートの急坂を推し進む。
 
たどり着いた空軍基地は木々に囲まれ、航空機の一機、軍用車両の一両さえ見えなかった。
 
もちろん帰りも自転車よん
徒然狸 ―タヌキの日記―
 

筆者は盲導犬を尊敬し、個人的に応援しています。
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